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10年度総主事通信⑤

2010.09.03

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今月のコメント

●“アイシャ”- “君は愛されるため生まれた”

 「アイシャ(ラルシュでの呼称)の家族が見つかったことは、“ラルシュは密やかな奇跡が起こる場所だ”という思いを、私の中に抱かせました。・・・アイシャと手をつないでプシュポニール(花の家)の前の道を歩いていました。・・・前方からリキシャ引きの青年がお客さんを2人乗せて勢い良く反対方向へ走り去るのが見えました。すると突然、その青年が『お前をやっと、ここで見つけたよ!』と怒鳴りながらお客さんを乗せたまま、再びこちらの方へ戻ってきました。アイシャの従兄弟が9年ぶりにアイシャを見つけた、これがその瞬間の風景です。
 1億6千万人がひしめくバングラデシュで、見事に成長したアイシャをその瞬間に認識した従兄弟の直感に驚きましたが、それ以上にダッカの縫製工場で働き続けながら、その月給の殆どを9年に渡り、アイシャを探すために費やしてきた母親の愛情の深さに打たれました。
 ・・・アイシャの本当の名前はシャハナ。一人の人間(ひと)の本当に名前が明らかになること、そしてその人の生きてきた歩みと歴史、その人が共に生きてきた人たちの顔やその風景が明らかになることが、人間(ひと)にとりどれほど大切なことであるかを、シャハナの出来事を通して深く心に留めました」(月例報告からの抜粋)

 これは岩本直美ワーカーが活動する知的ハンディのある人々の家のメンバー、“アイシャ”の物語です。ラルシュでは実名も年齢も分からぬメンバーは名前と誕生日を決め、祝福される存在になります。
 私も2008年2月に“アイシャ”に現地で会いました。“アイシャ”、いえ“シャハナ”に起こったこと、それは家族との絆を取り戻した奇跡でした。この物語に触れて、一つの賛美歌を思い出し、胸が詰まりました。
 “君は愛されるため生まれた。君の生涯は愛で満ちている・・・”-あの心に染みる美しいmelodyを。

●「もう一つのW杯」~日本代表監督 小沢道晴さん

 「・・・(8月)23日に南アフリカ開幕戦がある知的障害者サッカーの世界選手権に、全国から選抜した20人の選手を率いて乗り込む。・・・支援者がTシャツを売り、1口3千円の寄付を募るなどして必要な費用を集めてくれた。渡航の目処がついたのは8月になってから。・・・知的障害を持つ子どもにサッカーを教えて20年になる。・・・練習中は選手の間をまわり、声をかける。『しっかりボールを止めろ。』『パスのスピードを速く』。健常者が1回で分かる連係プレーの理解に3ヶ月かかることもある。だから指導は辛抱強く、丁寧に。以前はできなかったプレーを試合で決めた選手の姿に喜びを感じる・・・」(朝日 2010.8.23)

 南アで「もう一つのW杯」が始まっています。知的障害のある選手・指導者・協力者一体となった、可能性への挑戦と勇気を讃えます。このW杯にマンデラ元大統領と南ア・ラグビーチームのW杯優勝を描いた映画「インビクタス~負けざる者たち」を想起しました。
 “Invictus”は、ラテン語で「不屈」を意味します。この映画は元々、“Human Factor”という題名の予定だったそうです。不屈の精神で、しかも「人間的な要素」を持った知的障害のある選手達の、ボールを一途に追いかける姿に惜しみなく声援を送りたいと思います。

●戦争の実像を明らかにしていくこと~平和への努力

【戦争しか知らない20歳】
⇒私が恐怖を身近に感じた戦争は、イラクによるクウェート侵攻(1900.8.2)でした。あれから20年。当時、ドーバー海峡に面した英国の小さな町にいて、連日頭上を飛ぶ英国軍爆撃機を目撃しました。中東は至近距離でした。それが引き金となった湾岸戦争は、翌年1月17日に勃発。それは「茶の間で、ゲーム感覚で観る戦争」と言われ、今や、「無人攻撃機+民営化された」戦争の時代へ。
 イラクから米軍の戦闘部隊の撤退が完了し、「イラクの自由作戦」が終了しました。イラク戦争-7年5ヶ月、約10万人の市民と4,400人の米軍関係者の犠牲者、戦費総額3兆ドル(「世界を不幸にするアメリカの戦争経済」J.E.スティグリッツ・L.ビルムズ著)。イラクの20歳は、戦争「しか」知らない若者達。現在の戦争は、程なくメディアや市民がその裏側を暴いていきますが、しかし、やはり平和は「遠い夜明け」です。

【戦争を知らない53歳(私)】
⇒今夏、戦後65年経って、新たに明らかになった戦争の事実があります。迫るタイムリミットが、体験者の重い沈黙を破り、語り部に変容させ「過去の扉」を開きつつあるのでしょう。
 昨年9月に「『戦争と医の倫理』の検証を進める会」が発足し、活動を続けています。契機は「医師・医学者の戦争責任を考える」国際シンポジウム(2005年)でした。今年10月には、①731部隊等の医学犯罪の歴史、②ドイツと日本の医の倫理の比較、③今後の医療倫理に生かすべき教訓、に関するシンポジウムが開催されます。人命救済のための医療が、殺戮の技術になるという悪夢。封印されてきた過去が暴かれ、その実像を迫っていかねばなりません。「人間とは何か」を追求し、愚かさを繰り返さぬためにも。
 JOCS、JCMA共に、「医の倫理と戦争責任」は看過できない問題です。それは私達の原点ですから。過去から教訓を掘り起こし、未来への知恵とし、平和の実現に生かす、という使命においても、です。