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総主事出張レポート(5月、6月、8月、9月)

2006.11.10

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<6月:初めてのカンボジア(20060624)>

首都プノンペン。
発火寸前の緊張感みなぎる喧騒のダッカとは異なり、少しくゆったり穏やかな空気漂うカンボジア。コーランとモスレム文化とは異なり、悠然と僧侶が道を行く。上座仏教の国カンボジア。今年は、仏暦2549年。異次元の空間と時間の流れを実感する。ベトナム・ホーチミンほどではないが、バックミラーのないオートバイの群れが縦横無尽に街を駆ける。彼らは「後ろを見ない国民」なのだ。縫製工場に向かうトラックに立錐の余地なく乗車する女工さんたち。日々過酷な労働を強いられているという。村の女性たちが紡ぐ美しいカンボジア・シルクも深みを帯びて映る。
プノンペンの街中でも、地方の村々でもたびたび目にするCambodian People’s Party(カンボジア人民党)の看板。宗教と政治が暮らしに根付いている。宗教と政治が非日常のように遠い日本とは対極にある。フランス領、内戦と混乱。ポルポト、地雷、PKO、キリングフィールド、人身売買、エイズ、ストリートチルドレン。カンボジアを思い浮かばせるネガティブな言葉の数々。悲痛な歴史から、今復興の途上だ。

最終日に訪れたトゥルスレン虐殺博物館。正視に耐えないホロコーストの写真や記念品の数々。167箇所の刑務所と343のキリングフィールド。約300万人(実に国民の1/4!)が虐殺されたという。多くのキリングフィールドはまだ掘り起こされぬまま。ホーチミンの戦跡博物館とクチトンネル(延べ260kmにも及ぶベトナム戦争時の地下コミュニティ)が二重写しになった。当時9,000人いた収容所(生還者はわずか7名)は、元学校だったという。教育の場が、ある日虐殺刑務所へ。教室がレンガや板で仕切られ、急ごしらえの独房に。そこここにまだ血糊が残る。静かな叫び声が聞こえるようだ。多くの子供たちが殺された。多くの女性も。そして多くの子供たち(13-14歳)が洗脳され兵士として虐殺に関わった。国家規模のトラウマに満ちた記憶は癒されぬまま。何故、「ポルポト」が出現したのか?ポルポト時代とは何だったのか?心臓発作で死んだポルポト。真実は封印され、元幹部は裁かれぬまま生きている。史実を解けば現政権に影響があるので、「謎のまま」にされているのだ、と誰かが語っていた。

会員ツアー初日に訪れたステンミエンチャイ。プノンペン中のごみが集積されるスモーキーヒルだ。黙々と働く女児。彼女の眼差しが何かを語っているようだ。「私はひたすら生きる。そしていつか『あなた』になる」と。一日の収入が1ドルから3ドル。ごみと暮らす日々。これは、私たちが「つくり出した世界」なのだ。グローバル化の縮図がそこにある。しかしそのなかでも彼らは確かに生きている、しっかりと。
マザーテレサの神の愛の宣教者会(Missionaries of Charity)が運営するHome of Hope(希望の家)というエイズホスピスとエイズ孤児院。小さな子供たちが45人、支えあって生きている。ある子は、突然おばあさんに門の前に置き去りにされた。彼らを慈愛とともに包み込むシスターたち。
一人ひとりの子供たちに神様が宿っているように見える。「彼らはあと何年生きられるのか?」と尋ねると、「彼らの命は神様の手の中にある」と。そして「この施設は誰が支援しているのか」と訊くと、「個人以外のどのような寄付も受けない。政府・企業や団体・教会さえも。神様の働きならば、必ずかなう(God works. God does)」と。JOCSカンボジア事務所代表の諏訪恵子さんは、週末になるとHome of Hopeでボランティアを続けている。見捨てられた子供たちとともに生きる姿がそこにある。限られた「時」を生きるHIV陽性の幼子たち。しかし、彼らは屈託のない輝く笑顔で私たちに元気を与えてくれた。

プレイカバス郡の病院兼保健所。元JOCS奨学生の保健所長は、結核やHIV/AIDSへの取り組みと地域の保健医療(母子保健分野も含め)のため、日々闘っている。私たちの協力がここに生きている。
JOCSが支援するTBAトレーニングで出会った産婆さんたち。よく笑い、よく学んでいる。「赤ちゃんがどうやって生まれるのか、知らない」という。私たちの働きの重さと大切さを体感した。トレーニングコーディネーターのソルンナさんは温かくかつ厳しく指導する。彼女は1979年から92年までポルポト時代の難民キャンプで生活し、助産婦を目指した。欧米の指導者のもと徹底的に鍛えられたという。彼女から難民キャンプの体験を尋ねる勇気は、さすがになかった。彼女たちは、自らの悲劇を乗り越えつつ、命に寄り添う仕事をしている。それは、私たちの命でもあり、希望でもある。

大江 浩(JOCS 日本キリスト教海外医療協力会)