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08年度総主事通信⑫

2009.04.02

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今月のコメント

●パラダイムシフト-○○の「ない」世界へ、から○○の「ある」世界へ

 世界の結核の状況は、「WHOの2006年の発表によると、1年間に新たに結核を発症した人は920万人、170万人が死亡したと推計されている。エイズ合併によってサハラ砂漠以南のアフリカで罹患率が著しく高い傾向を示している・・・」。かたや日本の状況はというと、「患者数は2万5千人以上と我が国最大級の感染症である。・・・大阪、名古屋、東京をはじめとする関西、関東の大都市を含む都道府県の罹患率は高い。」(結核の統計2008より)
 結核はエイズなどの感染症との合併症の問題を抱えています。日本でも過去の病気ではなく、今の病気です。

 ストップ結核パートナーシップは、「結核のない世界へ」をスローガンに掲げています。
 「<結核>のない世界へ」の< >は、紛争・対立・貧困・暴力・差別・搾取など色んな言葉に置き換えることができます(ネガティブな言葉ばかりですが)。一方、例えば「夢のある世界へ」という言葉を思い浮かべてみてください。< >は他に希望・思いやり・愛といった言葉に置き換えられます(ポジティブな言葉はどうしても限られてしまいますが)。
 「ない」ではなく「ある」世界へ、のパラダイムシフトのためにそれぞれがどのようなコミットメントができるか、が問われています。そのためには先ず、無知・無関心・無力感という「3つの無(い)」から脱却しなければなりません。

●「いのちはレントゲンには写らない」(スマナ バルア医師)

 今様々なメディアで注目を浴びている色平哲郎氏(佐久総合病院地域医療部地域ケア科医師)は、途上国での保健医療協力のバイブルとも呼べる名著「Where There Is No Doctor/Dr. David Werner)」の邦訳版をHPに掲載されています。そのことはまた別途お伝えしたいと思いますが、今回は、色平氏のHPからのリンクから、タイトルに魅かれて、Dr.スマナ・バルアの講演記録を拝読した際に大変感銘を受けましたので、少しご紹介したいと思います。

 「中年の男性が患者さんとして診療所へ来ました。日本のお医者さんたちは『どうしたんですか?』と聞いて、『頭が痛い』と言うと、『はい、レントゲンを撮ってきて…、異常なし。』 これで終わりです。おじさんは、奥さんとけんかをしたのかもしれないし、酒を飲みすぎているのかもしれない。急に仕事を首になったのかもしれないし、また別の悩みをかかえておいでになるのかもしれないのです。でも、このようなできごとは、レントゲンのフィルムには写らないのです。患者さんと医師の対話の中でこそ診断が可能です。ですから、学生達には、さまざまな壁にぶつかりなさい、たくさんの人間に出会いなさい、と教えています。人間として、人間の世話をする取り組みに意味を見出して欲しいのです。」
 (第25回地域と教育の会・全国研究集会(兵庫県・但馬200.8.26)でのスマナ・バルア氏
  (医師)の講演記録より)

 <スマナ・バルア医師:バングラデシュ・チッタゴン生まれ。故郷の医科大学で教えながら、
  地元NGOの地域医療コーディネーターとしても活動。その後東大で医学博士号を取得し、
  WHOコンサルタント・JICAのPHC研修コースアドバイザーなども務める>

●村上春樹とダニエル・バレンボイム <静かなる勇気>

<村上春樹(エルサレム賞受賞講演:2008年)>
 村上氏は、「高くて固い壁があり、それにぶつかって壊れる卵があるとしたら、私は常に卵側に立つ・・その壁がいくら正しく、卵が正しくないとしても」と語りました。スピーチは続きます。

 「・・・私たちは国籍、人種を超越した人間であり、個々の存在なのです。『システム』と言われる堅固な壁に直面している壊れやすい卵なのです。どこからみても勝ち目はみえてきません。壁はあまりにも高く、強固で、冷たい存在です。もし、私たちに勝利の希望がみえることがあるとしたら、私たち自身や他者の独自性やかけがえのなさを、さらに魂を互いに交わらせることで得ることのできる温かみを強く信じることから生じるものでなければならないでしょう・・・」

<ダニエル・バレンボイム(ヴォルフ賞受賞スピーチ:2004年)>
 世界的な指揮者・バレンボイムも自身がイスラエルの出身でありながら、イスラエル国会での同賞(芸術部門)受賞の際に、イスラエル政府に問題提起をし(下記の通り)、政府関係者から激しい非難を受けました。

 「・・・心に痛みを感じながら、私は今日お尋ねしたいのです。征服と支配の立場が、はたしてイスラエルの独立宣言(★)にかなっているでしょうか、と。他民族の原則的な権利を打ちのめすことが代償なら、一つの民族の独立に理屈というものがあるでしょうか。ユダヤ人民は、その歴史は苦難と迫害に満ちていますが、隣国の民族の権利と苦難に無関心であってよいものでしょうか。・・・」(受賞スピーチより) 
★「平和のために尽くし、隣接する国々やその国民と友好的な関係を結ぶよう尽力することを誓う」と書かれている。

 封鎖され、「天井のない監獄」と呼ばれるガザ。「狂ったような状況」と表されたガザ。今は報道から消えた状態のガザに心痛みます。心が揺さぶられたときに、信念に立って声を上げることの「静かなる勇気」をお二人から教えられます。