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11年度総主事通信 ④

2011.08.09

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今月のコメント

●「未来への思いが彼を生かした」(岩波書店)/「人生はあなたに絶望せず」(朝日 人・脈・記)

 「人はどんな時にも夢を見、幻に生きる権利があります。それは生きる力の源泉です。アウシュヴィッツの過酷な状況を生き抜いたのは、頑丈な人ではなく、内面が豊かな繊細な人であったと、精神科医のフランクルが回想しています。彼は妻の面影の幻を見ていました。未来への思いが彼を生かしたのです・・・」(並木浩一氏・旧約聖書学/岩波書店「3.11を心に刻んで」)

 ビクトール・フランクル(「夜と霧」の著者)の本、「それでも人生にイエスと言う」(1993年)に光を見ます。フランクル曰く、どのような極限状態でも「生きる意味はある」と。朝日新聞の夕刊「人・脈・記/生きること」に、フランクルの再婚した妻エリーさんから国際全人医療研究所理事長の永田勝太郎氏のもとに届いた返信が紹介されています。永田氏は病の故に絶望の淵にあり、エリーさんに手紙を書いたのでした。

 「・・・『ビクトールがいつも言っていた言葉を贈ります。人間は誰しも心の中にアウシュビッツを持っている。でも、あなたが人生に絶望しても、人生はあなたに期待することをやめない』
アウシュビッツ?生死を分かつような苦悩のことだと永田は言う。・・・」(朝日夕刊 2011.5.2)

●「戦後66年は砂上の楼閣」(野坂昭如氏/日経「8.15からの眼差し」)

 「・・・震災と空襲の風景は異なる。ぼくは昭和20年、神戸で焼け出された。この時の焼野原を見ている。あらゆる死体も眼にした。爆弾攻撃のあと、瓦礫が連なり、破壊された家並みがあったにしろ、空襲の後は、ほとんど目の届く限り、一面の焼野原だった。・・・立っているものは焼け焦げた電柱、その上に、どこまでも青空が広がっていた。
 ・・・『一億一心』『進め一億火の玉だ』などのスローガンが飛び交い、つまり、死を前にして、すべての日本人が平等だったのだ」( 野坂昭如氏/日経 2011.8.6)

 “死”を前にして皆が平等だった、、、。私の父母、そして祖父母も、その時代に生きていました。「いかに生きるか、ではなくいかに(勇ましく)死ぬか」を問うた時代です。
 野坂氏は戦後66年を「砂上の楼閣」とし、「今こそ、日本人一人一人が立ち止まり、考える時である」と締めくくっています。

「渋谷の壁画『明日の神話』は核の炸裂。そして日本人の危機を描いた『日本沈没』。2巨星の警告をどう受け止める」(朝日 夕刊2011.7.29 素描子)
 故小松左京氏の代表作「日本沈没」では、アメリカ測地学会が日本の巨大な地殻変動を発表はしたのは奇しくも3月11日。40年も前の小説の予言的な内容に驚かされます。今年生誕100年の故岡本太郎氏と80歳で亡くなられた小松左京氏の原点は「戦争体験」であり、原爆に対する激しい憤り、です。ヒロシマ・ナガサキの方々は、66年後の今またフクシマの問題にも心痛めておられます。
 爆弾を落とす側は、落とされる側の苦しみを見ません。爆弾は落とされた瞬間に「過去」になり、落とされた側はそこから「現在」が始まります。66年たった今も。この66年を砂上の楼閣にしないためにも、2巨星の警告を一人ひとりの「記憶遺産」として刻みたいと思います。

●繋げる・広げる・掘り下げる~平和を目指して

 世界を変えたあの9.11から10周年。しかし、「ビンラディン容疑者殺害」にどよめきはなく、記憶が薄れ、「普通の9月」を迎えようとしている私達。3.11の傷跡がいまだ生々しい日本ではあるものの、9.11が話題にも上らず、世界の動きに目を閉じているかの如くの危うさを感じます。ソマリアでの飢餓、金融危機のみならず、ニュースにならない数々の緊急事態が各地で「静かに」進んでいます。
 「アラブの春」とされる中東の民衆革命に、レザー・アスラン教授は、著書“No God, But God”でイスラムの宗教革命の影響を指摘しています。平和の都「オスロ」での大量殺人テロは、共生ではなく排除が進む社会の衝撃を示しました。

 さて、海外のことに関して、少し前のことですが二つの記事に目が留まりました。
 一つは、南スーダン独立関連の記事です。
 「・・・8歳の時に故郷を離れて以来22年ぶりに母親と再会した(スーダンの)青年は、第2の故国とも言うべき米国での生活をなげうって故国に尽くそうと決めたそうだ・・・(そして彼は、語りました)『私はここに属している。よその土地は私を必要としていないが、ここの人たちは私を必要としている』。青年の言葉は感動的だ。・・・大切なのはやはり、平和だろう」(日経 2011.7.10)
 
 もう一つは、第16回日経アジア賞<文化部門>受賞者のベトナム人作家バオ・ニン氏の記事です。
 「ベトナムは幸いにも地震と津波の被害を受けたことはない。だが長い歴史の中で、人間による『地震と津波』、つまり戦争の被害は絶えなかった。作品で一貫して強調したのは、『平和より良いことはなく、戦争よりひどいことはない』ということだ。・・・子どもの世代が戦争を一生体験しないこと、孫の世代が人間社会から戦争が無くなるのを目撃することが私の最大の夢だ」(日経 2011.5.26)

 「戦争の悲しみ」の著者バオ・ニン氏の中では、地震・津波と戦争は繋がっています。私達は、今このような時だからこそ、国境と時代を超え、出来事を繋げ・視野を広げ・掘り下げて考えたいと思います。