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2013年度事務局長通信⑫/No. 96

2014.05.02

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今月のコメント

●”見えざる脅威“~感染拡大と“薬では治せぬ病”

 一触即発のウクライナ情勢が注目を浴びる一方、中東のシリアやパレスチナ、南スーダンや中央アフリカの人道危機も深刻です。また「週刊EAJ海外危機管理情報」の動向を追っていると、報道もされない世界各地の「渡航・滞在に、特に注意が必要な地域」は、“数知れず”です。しかし危機と混沌の中にあっても、地に根を張って懸命に生きようとする市民がいます。暴力は“見える脅威”として、そのような人々の命と未来をいとも簡単に奪います。
 さて、WHO(世界保健機関)は4月17日以降、西アフリカ各地でのエボラ出血熱、中東地域からマレーシアやギリシャへも広がった中東呼吸器症候群、中国での鳥インフルエンザなどを公表しています。日本国内でも、熊本で鳥インフルエンザのため約11万羽が殺処分(韓国で流行中のウィルスと由来が同じ)され、「豚流行性下痢(PED)」によって33道県で約83,000頭が死ぬ(ウィルス感染は米国からの可能性あり)事態となっています。今はまだ“エピデミック”(一定の範囲での流行)の段階ではありますが、“パンデミック”(世界流行)に至る懸念があります。
 WHOは、30日に「抗生物質が効かない耐性菌が世界で拡大・・・耐性菌の拡大は既に深刻な状態にあると判断。医療関係者らに抗生物質の処方を必要最低限に抑えることなどを呼びかけている。」(日経 2014.5.1)と公表しました。対策を怠れば、世界流行への恐れがあります。パンデミックの語源は、ギリシャ語の“pandemia”で、pan(全ての)+demos(人々)。全ての人々、への脅威です。紛争や対立、構造的な「貧困」も、世界に蔓延する“深刻な病”ではあります。“薬”では、治せません。核・放射能や気候変動に加え、感染拡大は命への“見えざる脅威”。しかしそれこそが、人類の未来を破滅に至らせる“共通の敵”。愚かで、無益な争いを続けている場合ではありません。

●“アジアを歩く” 村井吉敬(2013年3月23日 帰天)と「エビと日本人」(岩波新書)

 「バナナと日本人」(鶴見良行著:岩波新書1982)は、バナナを巡る、フィリピンの大農園や背景にある多国籍企業の暗躍や農園労働者の貧苦を報告し、私たちはその現実と日本人との繋がりに衝撃を受けました。その6年後、村井吉敬先生(上智大学名誉教授)は、エビを巡る、インドネシアなどの漁村での豊富なフィールド調査と緻密な観察眼+洞察で、私たちに「開発とは何か」を鋭く問いました。  

 「・・・インドネシアでも、『日本のエビ』を媒介に台湾や韓国に出会う図式がある。インドネシアでエビ養殖池に投資し、技術指導をする台湾人、日本に輸出するエビを獲るオーストラリアのトロール船の船員である韓国人、また先住民アボリジニ―もそこには組み込まれ、さらに冷凍工場で働くインドシナ難民や東チモール難民の姿も顔を出す。日本の1兆円エビ産業をときほぐしてゆくなかで、私たちは幾度となくこうした関係に出会ったのである。」(村井吉敬著:「エビと日本人」岩波新書 1988)

 私は幸い村井先生と国際ボランティア学会(初代学会長:隅谷三喜男=JOCS元会長)で度々ご一緒しました。帰天から1年後の15回学会大会(3/1)では、第1回村井吉敬賞(優れた実践者を顕彰)が設けられました。賞に際して、妻であり同志であった内海愛子先生は、「村井は、小さな声に、誠実に耳を傾ける人でした」と語られました。
 上智大学の石澤良昭副学長は、聖イグナチオ教会での葬儀ミサ(2013年4月8日)の弔辞で「・・・その名著『エビと日本人』の中で、インドネシアなどの第三世界の資源枯渇問題について現地調査を実施し、零細漁民の食卓からエビが消えることを心配していました。そうした心配りに村井さんの優しさを感じました。等身大の豊かさを探る視点から、顔のない豊かさとは何かを問い、人間の顔が見えにくい開発の問題をいつも議論して、明らかにしてくれました・・・」(追悼文集 「アジアを歩く」 2013)と語られました。
 村井先生は、クリスチャンでした。内海愛子先生曰く、「人生に悩んでいた17歳の時に福音ルーテル教会で洗礼を受けていました。・・・(召天の約1か月前)自宅での闘病中にカトリック教会に入りたいと決心しました」。村井先生はアジアを愛し、ひたすら歩き、小さくされた人々の中で生きる人でした。JOCSの働きに通じる精神を見ます。

●憲法9条と“ノーベル平和賞 with 世界遺産”~憲法記念日(5/3)に想う

 “積極的平和主義”を掲げる安倍内閣は、武器輸出政策の転換・集団的自衛権の行使容認・途上国援助(ODA)の軍事利用解禁への道を急いでいます。先月、13歳の男子中学生の読者投稿が目に留まりました。「安倍晋三首相が進めている政治は・・・まるで交差点を信号無視して突っ切ってしまう安倍レーシングカーのようだ。・・・」(朝日 2014.3.13)との例えに、かつての「赤信号、みんなで渡れば恐くない」というブラックユーモアを思い出しました。

 「戦争放棄を定めた憲法9条を、ノーベル平和賞に推薦した『憲法9条に平和賞を』実行委員会が19日、東京・代々木公園であったイベントで、推薦が受理された(※)ことを報告した。・・・鷹巣直美さん(37)は『9条を世界に広めるため、実行委は受賞するまで活動を続ける』・・・『・・・(受賞した際は、式には)日本代表として(安倍晋三)首相に喜んで行ってほしい』と答えた。 (※賞の対象は、「憲法9条」ではなく、「9条を保持している日本国民」)
 鷹巣さんは主婦として2人の子を育てながら、難民救済の活動にも協力してきた。『戦争で、子どもたちに悲惨な思いをさせたくないのは世界中で同じ』と、昨年9月、インターネット上で、9条を平和賞に推薦する署名活動を始めた・・・」(朝日 2014.4.20)。署名活動は今も継続中で、44,558筆(4月18日現在)。現在、2014年のノーベル平和賞には278の候補がノミネートされている、そうです。

 先日、「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界文化遺産登録が勧告されました。昨年には「和食 日本人の伝統的な食文化」が無形文化遺産に登録されています。原発事故の風評被害下にある福島県有機農業ネットワークの菅野正寿さん曰く、「無形文化遺産である和食を支える、農業者こそが世界遺産だ」と。これを機に、市民が推すノーベル平和賞とダブルで「憲法九条を世界遺産に」(太田光・中沢新一、集英社新書2006)の実現をも祈願します。