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2014年度事務局長通信⑥/No.102

2014.11.12

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今月のコメント

●ラルシュの50年とジャン・バニエ

 岩本直美ワーカーが活動するバングラデシュのラルシュ・マイメンシンが12周年、所属する国際ラルシュが50周年を迎えました。以下は、ラルシュ創設者ジャン・バニエの言葉です。

 「ラルシュの50年。年月の経過と共に、神の優しい手が、私たち皆を導き、呼んで、私たち皆と共にいて下さいました。そうです、ラルシュは神の御業です。神は一致を切に望んでおられます。障がいの故に、しばしば拒絶され、脇へ追いやられた人々は社会や教会、宗教界の中で、価値ある者、大切な人として見られるようにと、神は切に望んでおられます。
 人間であるとは一体どういうことなのか、勝者になることを求めるよりもむしろ、人々を共同体に、一つになるために集める人間であるとは一体どういうことなのか、拒絶された人々はそれを私たちに教えるために沢山のものを持っています。彼らは私たちに、違いがあっても、またどのような違いがあろうとも、全ての人々に心開き、愛するようにと呼びかけています。・・・」(ジャン・バニエの手紙 2014年9月より)

 「世界はますます分裂へと進んでいます。確かに技術は大切なものでしょう。しかし、今日において平和と一致のために働くこと、弱者、異なったものを受け入れようとする心もまた、必要です。そして私たちの小さなコミュニティは、平和のために働くようにと召されています。・・・知的ハンディを持つ人のもろさと苦しみに触れ、その時、彼らが私を信頼してくれると、私の中にも優しさの新しい泉が湧き起こるのを感じました。」(ジャン・バニエ著「ラルシュのこころ」:一麦出版社)。

 ラルシュが、弱さ・脆さを抱えつつ、互いを慈しむ「共に生きる」平和の在り方を私たちに示しています。

●“先ず、子どもを”~「子どもの権利条約」採択25周年

 今年のノーベル平和賞は、パキスタンの女子学生マララ・ユスフザイさんとインドの児童労働問題の活動家カイラシュ・サティヤルティさんが受賞しました。授賞理由は、「子供や若者への抑圧と闘い、すべての子供の教育を受ける権利のために奮闘している点」でした。「貧しい国の子供たちが教育を受け、自分の意志で生き方を受け、自分の意志で生き方を選べることは過激主義の台頭を抑え、紛争やテロの防止につながる」(朝日新聞 2014.10.11)。これは、一部の“活動家の”ではなく、“私たちの”問題です。

 世界子供白書2014のテーマは、「だれもが大切な“ひとり”~格差を明らかにし、子どもの権利を推進する」。今年は、「子どもの権利条約」採択から25年です。同白書に書かれていることは、例えば・・・

 ・「もし死亡率が1990年時点のレベルにとどまっていたならば命を失っていたであろう約9,000万人の子どもたちが、5歳より長く生きることができるようになった。」
 ・「タンザニアの最貧困層で出生登録される子どもは『4%』。これに対して最富裕層では『56%』が出生登録をされている。」
 ・「世界の子ども(※)の15%が児童労働に従事しているが、これは経済的搾取から保護される権利、学習や遊びの権利が侵害されている。」 ※2012年:18歳未満の人口約22億人(総人口 約70億人)

 「人は極めて壊れやすい状態で生まれ壊れやすい状態で死を迎えます。人は生涯、傷つきやすい脆弱さのもとで生きています。子どもたちは危機から身を守ることもできず、最も弱くされている存在です」(私訳:“Becoming Human”:Jean VanierのHP)。子どもの命を支えることは、“人となっていくため”の行動です。JOCS小島会長は「貧困・飢餓・差別などによって小さくされている世界中の女性や子どもたちの危うい『いのち』を守るために」(2013年次報告書)と訴えています。子どもたちの無限の可能性は私たちの“世界を良いものに変えていく力”となり得ます。“先ず、子どもを”のもと、私たちが一つになれますように。

●「沈黙の春」、そして「生命への畏敬」

 今夏、Newsweekが「静かに広がる海の『死の領域』」(Newsweek 2014.8.26)で、警告を発していました。

 「海のあちこちで広大な酸欠海域『デッドゾーン』が増えている。・・・バルト海では微小な藻類が酸性度の高い環境で汚水を栄養にして大量発生しているため、既に海洋生物の3分の1が死滅している。・・・『アルカリ度が下がって海の生物の力関係が大きく変わり、食物連鎖にも繁殖にも打撃を与えている。大事故になるのを承知で車を走らせているようなものだ』。こうしたリスクをもたらしているのは、人為的な原因による気候変動だ。」(同上)。Newsweekのその号の特集名は、「地球を壊す 海の病」でした。

 海洋生物学者レイチェル・カーソンによる「沈黙の春」が世に出たのは、1962年、JOCSがネパールへ岩村昇医師を派遣した年でした。誰も気づかぬうちに、“海面下”で進む“静かなる緊急事態”は、感染症拡大の元凶と言える気候変動や地球温暖化の中でも、最も「見えづらい脅威」です。
 カーソンは、医療と伝道に生涯をかけ「密林の聖者」と呼ばれたアルベルト・シュバイツアーを深く尊敬し、「沈黙の春」をシュバイツアーに捧げました。シュバイツアーの信念は「生命への畏敬」、生きとし生けるものの生命を尊ぶことこそ倫理の根本である、という主張でした。
 「複合汚染」(1975年)の著者 有吉佐和子は、カーソンに注目した一人です。3.11の原発事故は、安全神話を打ち砕き、新たな「複合汚染」を私たちに突きつけました。カーソン曰く、「地球が誕生してから過ぎ去った時の流れを見渡しても、生物が環境を変えるという逆の力は、ごく小さなものにすぎない。だが、20世紀というわずかの間に、人間という一族が、おそるべき力を手に入れて、自然を変えようとしている」。
 この「おそるべき力」、「禍のもと」とは“放射能”であり、殺虫剤などの“化学薬品”です。しかし今、原発再稼働と原発の海外輸出が動き始めています。私たちは、「生命への畏敬」に反して、このまま地球という豊かな生命体を壊し続けるのでしょうか?自然を、“古里”を、全ての命を、蔑ろにし続けるのでしょうか?私たちは今、深刻な問いを突き付けられ、自らの命を危うくしています。