HOME>ニュース>12年度総主事通信 ⑥<No.66>

ニュース

12年度総主事通信 ⑥<No.66>

2012.10.23

シェア ツイート

今月のコメント

●「少女への銃撃」(朝日 2012.10.19)~「私たちもマララ」

 「私には教育を受ける権利がある。私には遊んだり、歌ったり、おしゃべりしたり、市場に行ったり、自由に発言する権利がある」(マララ・ユスフザイさん 朝日2012.10.14)。パキスタンの少女、マララさん(15歳)が銃撃され、重体です。反政府武装勢力のパキスタン・タリバーン運動(TTP)が犯行を認めました。

 私がパキスタンの隣国アフガニスタン入りをしたのは、2002年9月。9.11から1年後のことです。当時、女児の就学率はわずか3%、男児の十分の一でした。「アフガニスタンでは『家の外を知らない』女児もいる」と聞き、「えっ、何故?」と訊くと、「自宅で育ち、12歳で結婚すれば嫁ぎ先に移って、一生を暮す。外界を知らない女児がいる」との指摘でした。カブールでの滞在先は、スラム居住区の中の母子クリニックでした。タリバーン政権の時、女性の外出や就業が見つかれば投獄され、石打の刑に処される(私のカブール入り直前にも!)という時代を生き抜いてきた女医が女性と子どもを診ていた診療所でした。
 「ユニセフの推計では、15歳以前に結婚させられる女子は世界で2300万人に達する・・・南アジアでは、若い女性に仕事があるとだまして売春させる人身売買や児童労働が横行している。さらには、望まない結婚から逃れようとする女性を一族が自らの手で殺害する、といった悪習も残っている」(朝日 2012.10.19)

 「少女への銃撃」は、女性への銃撃、女性の未来への銃撃、人類の母・すべての命への銃撃です。JOCSの5か年計画の最優先対象は「女性と子ども」。看過できません。許されないテロ事件です。犯人の中には、「父」・「夫」もいたはず。そして「母」から生まれた人間であることを思い起こしてほしい。
 今年10月11日は、国連の第1回「国際ガールズデー」。昏睡状態だったマララさんは、意識を取り戻しました。「マララ。君を貫いた銃弾は何万倍もの怒りとなって、女性差別と狂信者たちを撃つはずだ」(朝日2012.10.13)。「世界各地で『私たちもマララ』と書かれたカードを手にマララさんとの連帯を訴える動きも広がっている」(同 10.20)。マララさんという「小さな希望」への連帯が、闇を照らす光になりますように。

●「まだ一人の患者さんも救っていない」&「iPS、いい顔になってきた」

 iPS細胞の発見からわずか6年の受賞。再生医療が切実、切迫した状況にあることの現れでしょう。山中伸弥 京大教授のノーベル医学・生理学賞受賞は、まさに医療を再生する「命の革命」と言えます。各種メディアでその特集が報じられましたが、最も印象に残った3人の言葉を改めて記したいと思います。

 「すごい先生です」(筋肉が骨に変形する難病と闘う中学生3年生 山本育海(いくみ)さん)
 「1回成功するためには9回失敗しないといけない」/「まだ一人の患者さんも救っていない・・・希望を捨てずにいてほしい」(山中教授)
 「iPS、いい顔つきになってきた」/「(発見は)千ページ以上ある実験ノートの中のたった1ページの出来事」(高橋和利氏、山中教授の右腕として支え続ける京大講師)

 「すごい先生です」⇒ノーベル賞受賞と共に中学生との交流やコメントが載るのは異例。「すごい」にこもる万感が伝わります。「まだ一人の患者さんも救っていない」⇒愚直に命と向き合う医療者の心根です。「iPS、いい顔つきになってきた」⇒膨大な時間と労力、使命に賭けたプロ=熟練者ならではの言葉です。
 iPS細胞のキーワードは、「初期化」。「『初期化』はいったん分化した細胞を、時計を巻き戻して受精卵のような状態に戻すことだ。ヒトの体は約60兆の細胞で構成されるが、始まりは1個の受精卵だ」(毎日2012.10.16)。まさに“神業”です。願わくば、争いをやめぬ人間のDNAも「初期化」してほしいものです。

●莫言・村上春樹~もの語る作家

 領土という名の無人島の帰属を争い、日中韓、特に日中との緊張が高まる中、奇しくもノーベル文学賞を巡って、日中の作家が注目を浴びました。そのお二人の立ち位置に、「弱者の側に立つ」を見ます。
 受賞者である莫言氏が、以下のように紹介されていました。
 「・・・長男ではなかったため、当時の風潮もあり、小学校を中退。兄の教科書を読みふけるなどして、小説の楽しみを知った。工員を経て、つてを頼って人民解放軍に入り、芸術を学ぶ内部組織で創作を覚えた。いまひとつ、莫言さんの小説には、どこかにかならず<絶対の弱者>はいる。それが中心人物であることもある。・・・中国の現実を鋭くえぐるものとなる」(朝日 2012.10.16) 「言う莫(な)かれ」とのペンネームを持つ、波乱万丈の人生を歩んだ「寡黙」な作家は、しかし作品を通して、静かな力で物語っています。

 方や、受賞の最有力候補とされた村上春樹氏のメッセージです。
 「・・・安酒を気前よく振る舞い、騒ぎを煽るタイプの政治家や論客に対して、我々は注意深くならなくてはならない。・・・安酒の酔いはいつか覚める。しかし魂の行き来する道筋を塞いでしまってはならない。その道筋を作るために、多くの人々が長い歳月をかけ、血の滲むような努力を重ねてきたのだ」(朝日 2012.9.28)。村上氏も、物語る作家です。「高く堅固な壁と卵があって、卵は壁にぶつかり割れる。そんな時に私は常に卵の側に立つ」(エルサレム賞スピーチ/2009.2.15)、「非現実な夢想家として・・・我々日本人は核に対する『ノー』を叫び続けるべきだった。それが僕の意見です」(カタルーニヤ国際賞スピーチ/2011.6.9)。もう一言追加します。「人々は闇の中から出てくる何かを見つけることで、闇の中から救われることができる」(村上氏)。
 闇からの救いの道筋は、「闇の中から見い出すのだ」、と受け取りました。

 中国はJOCSの活動地ではないものの、その原点は、日中戦争当時の中国難民医療活動(1938年)です。医療協力を通しての贖罪と平和を求める働きは、「闇から光へ」、その旅路であるように思えます。