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総主事通信07年度⑧今月のコメント

2007.11.28

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5.今月のコメント
●大森絹子さん(元JOCSワーカー・故人)とエイズへの取り組み(北部タイ)

「時が流れるままに、どんどん広がっていく社会の矛盾・・・でも、これは誰かがやらねばならない仕事でのす。前方に見え隠れする一筋の光を信じて前進していく以外にすべはないのです。・・・マザー・テレサの『ただひとりの人を助けたに過ぎなくてもいいのです。イエスはひとりの人のためにも、ひとりの罪人のためにも死なれたでしょう』・・・この言葉は。私への励ましと慰めの言葉です」 「タイ山岳民族 カレンー国際保健医療活動の現場から」(大森絹子著:朱鷺書房)

「私は2年半の任期中に、およそ20人のエイズ患者の死を見送った。私が対象とした患者の大半はとても貧しかった。人間の尊厳すら許されない社会の最底辺で生きた貧しいエイズ患者の死は、深くて重い鉛のような痛みの蓄積となった。・・・女性と子供を第一に守る立場でエイズ問題にこれからも取り組み続けていこうと思う。」(JOCSフォーラム Vol.16/1997.5から)

 2000年に49歳の若さで肺がんで召天された元ワーカーの大森絹子さん。第2期(1994年6月~1997年3月:ワールドコンサーンインターナショナルに所属)で、エイズ教育とカウンセリングプログラムに取り組まれたその活動は、今タイ・チェンマイにある「希望の家」(House of Hope)に受け継がれ、エイズ孤児の命と未来を支えています。

●「戦争しか知らない子どもたち」
 5年前の話で恐縮ですが、難民支援調査のため、ペシャワール(パキスタン)からアフガニスタン国内に入った時のことです。当時、アフガニスタンの児童の就学率は、男児33%、女児3%との調査がありました。その数値の正確さが問題ですが、しかし一つの目安とすると、義務教育年齢の女児は100人に3人しか学校に通えていない、という状況でした。1979年のソ連・アフガン戦争以来、激しい内戦から、2001年10月8日には米国による空爆へと続き、破壊しつくされたアフガニスタンです。
 ある時こんな話も聞きました。アフガニスタンの結婚適齢期は12歳。12歳になるまで自分の家で暮らし、その後結婚すれば嫁いだ先の家で一生暮らす。そうした女児は、「一生に二つの世界しか知らないのだ」と。確かにこれは極端な例かもしれません(と信じたいと思います)。ですが、戦争(大人同士の戦い)が子どもたち(特に女児)の教育機会のみならず、人として生きる権利と未来を奪い続けている現実があります。
 「戦争を知らない」ではなく「戦争しか知らない」子どもたちがそこにいます。彼らは、やがて子ども兵士として育てられたり、機関銃を一つのファッションのように身にまとったりしています。対人地雷被害者となる罪のない子どもたち、麻薬や犯罪の餌食となり、人身売買・臓器売買やエイズのリスクにも脅かされています。何とかせねばなりません。

●豊かさにある貧困、貧しさにある豊かさ―映画「SICKO」マイケル・ムーア監督からの警鐘

 今年8月下旬から、あのマイケル・ムーア監督の「SICKO(シッコ)」というドキュメント映画が上映され、話題を呼んでいます。“SICKO”とは“ビョーキ!!”という意味です。次期大統領を目指すヒラリー・クリントン上院議員もかつてより「医療改革」を訴えていることはご存知のとおりです。
 米国は保険充実度、世界37位(先進国中、最下位)。世界の超大国である米国では人口の16%にあたる4700万人(実に6人に1人)が政府や民間が提供する保健に加入していない「無保険」で、「1.8万人が治療を受けられずに死んでいく」という状態であるとのこと。「SICKO」には、そのような無保険の人々ばかりではなく、保険に加入しているにも関わらず、大病を患って、治療費が払えず「病死か破産」へ、という人々も登場します。ちなみに私の米国人の友人も息子さんの治療費(1年半入院)に1億数千万もかかったと聞き、驚いた記憶があります。病気を治療する制度のビョーキ状態、、、。
 テロとの闘いとは異なる次元ではありますが、日々の暮らしと命を脅かす「安心・安全への危機」。守られるはずの命が守られない現実。
 世界で最も豊かな国にある、想像を遥かに超えた絶対的な「貧困」。皮肉にも、貧しい国にある「豊かさ」との対称的な現実が並存する現在のグローバル地図。「南北問題」が、さらに複雑化モザイク化しつつある構造が存在します。途上国の保健医療協力に携わるJOCSとしても、大変心痛む状況が進みつつあります。