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震災とバングラデシュ

2011.07.01

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チッタゴンEPZ(工業加工区)にある日本企業オフィス、4月のある日の会話である。
彼は、メールチェック中の社長の前に立ち、静かに口を開いた。
「ボス、ちょっといいですか?」「おう、どうした?」
「実は、東北の震災被害に、お金を送りたいのですが、どうするのがいいかと思って。」
「おう、そうか・・で、どのくらい送るつもりだ?」
「日本円で10万円くらいを考えています。」
「えー10万円って、そんな大金、大丈夫なのか?」
「ええまあ、大変ですけど、私は日本では、多くの人にお世話になったので・・。それに、昔勤めていた会社の工場も東北地方にあるから、少しでも何か出来ないかと思って。」
「・・・わかった。俺が責任もって、届けてやる。」

彼はターリックさんという50代のベンガル人。かつて日本に出稼ぎで働いた経験を持ち、日本語もペラペラである。上はまだ中学生の2人の息子の父親でもある。つい最近、新工場の責任者に抜擢され、昇給はしたらしいが、10万円は、やはり相当の大金のはずである。ちなみにEPZにおける労働者の国から保障された最低賃金は、未だ月額5千円に満たないのが、この国の現状である。
私たちは、日常生活でお金の感覚を日本円に換算するのに10倍で考える事が多い。しかるに、今回の出来事は、一般のサラリーマンが100万円もの大金を送るという感じであろう・・しかも、ここはバングラデシュ。金額にこだわるのも、なにかいやな感じだが、彼の思いが深くくみ取れる。

3月の被災後間もない時期に、写真の様な広告を新聞で見つけた。
靴屋さんが、期間限定だが売り上げの10%を日本の義援金として送るという内容である。一つの国に限定して、このような形での広告をバングラデシュでみたのは、今回が初めてである。
後日、キャンペーンは終わっていたが、偶然このお店をチッタゴンで見つけた。思わず、御礼を言いたくなって、入ってみた。なぜ日本のためにこのようなキャンペーンを打ったのかはよくわからなかったが、ラベルを見せてくれた。

私の働くCHCでも、朝の祈祷会では、いつも日本のために祈ってくれていた。

援助慣れしたこの国では、やたら「何をくれるのか」「貧しいから、なんとかしてくれ」「言って、もらったもの勝ち」といった態度・言動が目につき、やる気をそがれてしまうことが多い。
しかし、このような個人や善意の団体に出会う時に、上辺だけではない真のパートナーシップの心を強く感じるのである。

バングラデシュワーカー 宮川眞一