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11年度総主事通信 ⑪

2012.03.15

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今月のコメント

●“魂の声”~記念切符「釜石から復興未来ゆき~諦めない限り」

 あの震災以降、折に触れ心打つ言葉を紹介してきました。今回も、3つの言葉を。
3.11の追悼式、宮城県の遺族代表の奥田江利子さんは、「悲しみを抱いて生きていきます」と語りました。

 「先生、あのね。両親と姉を亡くした岩手県陸前高田市の熊谷海音(かのん)ちゃん(8)は昨年11月、マラソン大会の途中で家族の声が聞こえた、と小学校の『あのね帳』に書いた。こんな言葉が並ぶ。
 『がんばれかのん』。ママの声です。『うちの分まで』。おねーちゃんの声です。『つなみにまけないおまえがまけるわけがない。おれたちの分までがんばれ』。パパの声がしました。『うち、がんばっているからおうえんおねがいね』。楽しかったけど、ちょっといま一人になったことがくやしいです。
 ・・・80歳まで生きたらタイムスリップして、小学校1年の私になるの。そうすれば天国のパパとママが私を見つけて迎えに来てくれるから。海音ちゃんは時折、家族の写真を枕元に置いて眠りにつく。みんなの声を忘れないように、と。・・・」(朝日 2012.3.10)

 「釜石から復興未来ゆき」という切符が、大震災から1年となる2012年3月11日に釜石駅で販売されました。被災して大半の区間が不通となった三陸鉄道の支援のために地元有志が企画したものです。有効期間は「諦めない限り」と書かれています。復興未来ゆきキップ実行委員会の三塚浩之さん(49)は『乗車のためではなく自分のための切符。実際には乗れないが、復旧というゴールに向けて走る三陸を見ながら、ゴールの見えない私たちが走り始めるきっかけにしたい』と話す。」(朝日 2012.3.10)

 奥田さんにはご両親と2人の子どもの「代わり」に生まれた孫 梨智ちゃんが、海音ちゃんには「家族の声」が、三塚さんたちにとっては「復興未来ゆき・諦めない限り」の切符が、“魂の声”となって背中を押しています。

●“No Nukes”コンサート‘79~「忘却に抗う」(週刊金曜日 2011.12.23)

 1979年3月28日、私の大学卒業式の後、米国ペンシルバニア州スリーマイル島で原発事故が起こりました(チェルノブイリは1986年)。「レベル5」でした。それは、奇遇にも映画「チャイナ・シンドローム」公開の12日後でもありました。“チャイナ・シンドローム”それは原発の最悪事故を意味します。
 福島第一原発事故は「レベル7」、チェルノブイリと同じです。そして放出された放射能は「57京ベクレル」(原子力安全委員会発表)、「京」は兆の千倍、57,000,000,000,000,000ベクレル、途方もない数値です。
 スリーマイル原発事故の後、米国のミュージシャンたちは一斉に、“No Nukes”という反核コンサート@NY(同年9月)のために立ち上がりました。正式名称は、“MUSE/Musicians United for Safe Energy”コンサートです。ロック界のスーパースターたちの素晴らしいパフォーマンスの数々、しかし最も印象に残っているのは、ジョン・ホールの“Power”という曲です。心打つ静かな美しいメロディ。しかしメッセージは明確かつシンプルな「原子力ではない自然エネルギーを」でした。私の中では、スリーマイルは32年もの間、ずっと他人事であったにも関わらず、その歌はいつも心の中で響いていました。恥ずかしながら、「命の危機」が身近なものとなって初めて、歌の向こうにある切実な訴えが突き付けられ、心の中の何かが呼び覚まされました。

 さて、第79回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞・受賞の「不都合な真実」(2006)のアル・ゴア氏曰く、「迫害を受ける研究者を何人も見てきた。嘲笑され、仕事を奪われ、収入を断たれる研究者、彼らが“不都合な真実”を発見してしまったからだ。そして発表を試みたからだ」と。「原子力村」の巨大な利権共同体の“神話”に排除された研究者たちの“声”、隠蔽された「不都合な真実」と私たちは向き合わねばなりません。それは私自身と向き合う、ことでもあります。「忘却に抗う」と共に、あの“Power”(Youtubeでも観られます)を心に刻んで。

●映画「津波、そして桜」と第84回アカデミー賞短編ドキュメンタリー賞

 いまだ寒い日々が続くものの、少しずつ春へ、桜の季節へ移ろい始めています。昨年は、桜を見ることすら辛いことでした。桜に目を向けたのはようやく5月の中頃、新花巻から釜石行きの列車からでした。美しい桜が咲き乱れるのどかな田園風景は、釜石に着いた途端、真っ黒な瓦礫の山の情景へと一変しました。
 今年のアカデミー賞では、英国人のルーシー・ウォーカー監督の映画「津波、そして桜」がノミネートされました。東日本大震災の被災者たちが、復興に向けて歩み始めた姿を、日本文化を象徴する桜の花と共に綴った39分の短編です。この監督自身も、かけがえのない母親の闘病と死別体験と桜とが結びつく体験をもつ方です。震災当時、既に完成済みの映画「カウントダウンZERO」の日本での宣伝のために来日していた時、東日本大震災に遭遇し、仲間たち3人と撮り始めたのでした。

 今回のアカデミー賞短編ドキュメンタリー賞を受賞したのは、「セービング・フェース(顔の救済)」でした。監督はパキスタン人女性のシャルミーン・オベイド・チノイさんです。

 「作品は米国人監督との共作で、夫や恋人から硫酸を浴びせられてやけどした女性と、治療に当たる男性医師の様子をとらえた。地元NGOによると、パキスタンでは毎年、150人以上の女性が硫酸の被害にあっているという。家庭内暴力の延長や求婚を断られた報復として、女性の顔を大きく傷つけ、屈辱を与えるとともに社会生活ができなくすることが主な理由だ。」(朝日 2012.2.29)

 映画「津波、そして桜」は受賞を逃しましたが、封印されてきた女性への暴力に光が当たったことは大きな前進です。3月8日は国際女性デーでした。毎日が記念日、毎日が女性の人権が尊重される日でありますように。今年のアカデミー賞短編ドキュメンタリー賞は、二つの映画にとってダブルの価値があるように思えます。