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11年度総主事通信 ⑫

2012.04.13

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今月のコメント

●“回復する力は、誰にでもある”-アルフォンス・デーケン司祭(東京・生と死を考える会名誉会長)
 昨年の今頃は、世の中の全てがモノクロに映りました。今年は、桜の色の美しさが、目に染みました。
 「・・・桜の季節は毎年必ず巡ってくるけれど、去年と今年の花の間には丸1年の時間が、年輪のように刻まれている」(日経 2012.4.8)。一日一日が、そして一つひとつの言葉が年輪のように刻まれた1年でした。
 
 「海沿いの介護施設を訪ねた。個室に入ると、89歳のおじいちゃんが、窓の近くで海を見ていた。長女(62)が、身の回りの世話を終えて帰ろうとした時、おじいちゃんがふと、聞いた。『ばあちゃんはいつ来るんだ』長女は目を伏せて答えた。『仙台の病院にいるんだから、すぐにこられないって』。おじいちゃんは、安心したように微笑んだ。
 あの日、おばあちゃんは海に面した病院の4階にいた。黒い水は高さ十数メートルの病室にまで押し寄せてきた。遺体が見つかり、知人に頼んで火葬した。避難所暮らしで、親族は葬式もできなかった。・・・帰りの車の中で、長女は私に言った。『いつまでウソをつけばいいんでしょう』。間もなく『3月11日』が来る。現実を受け入れられない人が、この町にはまだたくさんいる」(朝日 2012.2.28「南三陸日記」)。1年が巡っても、変わらぬ現実があります。

 「・・・大震災の津波で娘と孫を亡くし、家を失った福島の女性が、私の本を読んで訪ねて来られました。ずっと自分の中に引きこもっていたけれど、今は周りの人を励ましています。人間にはすばらしい治癒力がある。スピリチュアリティーはユーモアや愛の能力に似ています・・・」(朝日 2012.3.19)と、死生学者であるアルフォンス・デーケン上智大学名誉教授は語ります。デーケン先生の「回復する力は誰にでもある」、「生きる意味は見つけられる」、「苦しみは選べぬが、対応は選べる」という言葉が、いまだ絶望の淵にある人たちの心に届きますように。

●鬼 怒鳴門(キーン・ドナルド)氏の覚悟

 日本文学研究者のドナルド・キーン氏(米コロンビア大学名誉教授:89歳)は今年3月8日、日本国籍を取得しました。漢字名は、「鬼 怒鳴門」です。キーン氏は、「振り返れば私が日本を選んだのではなく、日本に私が選ばれたというのがわが人生の実感。退職後は日本に永住して、日本国籍を申請したい。日本語に浸りながら、本を読み、本を書く暮らしに徹したい。」(asahi.com 2011.4.6)と、語っておられました。
 日本への永住の決意は、東日本大震災に際し、多くの外国人が離日したことが契機となったことは知られるところです。9月、成田に到着後のコメント、「希望があれば乗り越えることができる。終戦直後、私が訪れた東京は煙突しか残っていない街だったが、今は立派な都会になった。東北にも奇跡が起こる」が、印象に残っています。しかし日本国籍取得の記者会見では、震災後の日本の状況に、「率直に言うと、がっかりしています。日本人は力を合わせて東北の人を助けると思っていました。東京は(電気が)明るい。必要のない看板がたくさんある。東京だけではない。忘れているんじゃないか。まだやるべきことは、いっぱいある」と苦言を呈しました。

 鬼 怒鳴門氏は、「人知をもってすれば天災も抑え込むことができる」という欧米流の科学的確信に疑いを持ち、「私は日本文化に洗脳された人間。自然の持つ力には逆らえないという諦観に心ひかれます。」とも語ります。
 福島の危機は終わっていません。でも、「ストレステスト一次評価は了承、しかし安全を保障するものではない」(???)という原子力「安全」委員会、「おおむね適合」(おおむね?)として大飯原発の再稼働を急ぐ政府は、この言葉を何と受け止めるのでしょう?鬼の怒鳴る声が聞こえてきそうです。「今は自分の魂を、日本のために使っている。それは大きな変化ですから」(朝日 2012.4.7)というキーン氏。氏の日本を問う姿勢と日本に「骨を埋める覚悟」に、福島のことに思いを寄せ、私たちが学び応える番です。福島は、日本の「代償」ではない、はずです。

●「外国人看護師、なお難関」~閉ざされた島国ニッポン

 「・・・経済連携協定(EPA)に基づきインドネシアとフィリピンから受け入れた看護師候補者47人が国家試験に合格した・・・。受験者は415人で、合格率は11.3%と過去最高だったが、依然として合格の壁は高い。・・・今回、日本人を含む全体の合格率は90.1%で、その差は大きい。・・・今回は2008年に第1陣として来日し、1年の滞在延長が認められたインドネシアの候補者にとって最後の試験だった。」(朝日 2012.3.27)

 「・・・(EPA)に基づき、インドネシアとフィリピンから来日した看護師、介護福祉士候補者は1,300人を超える。政府は受入れ段階で厳しい資格条件を設けたうえに、看護師なら3年以内、介護福祉士は4年以内に国家試験に合格するよう求めている。」(日経 2012.3.30)
厚労省は、合格率向上のため「漢字に振り仮名をつけ、試験時間を延長」する方針、だそうです。その次元の問題でしょうか?日本語習得、施設での研修、国家試験の受験勉強、その他多くの壁に直面した挙句、不合格となり、帰国を余儀なくされた人たちの未来は? 彼らの人生の最も大切な、3年ないし4年という時間は戻りません。

 JOCSは、EPA初年度の2008年、AHI(アジア保健研修所)主催の勉強会@東京に協力しました。ゲスト講師であるフィリピンで地域保健医療に従事する現地NGOのスタッフから、「途上国では医療過疎地が多い中、何故豊かな日本が我が国の医療従事者を奪おうとするのか?」と問われ、答えに窮したことを覚えています。EPAによって来日する人たちはいずれも母国では将来有望な人材ばかりです。1,300人もの貴重な人的資源を、医療や福祉ニーズの高い母国から切り離し、そして「9割以上を国家試験不合格者として母国へ返す」という矛盾に、制度上の根本的な問題を感じます。仮にその1,300人が母国に留まっていたなら、救い支えられる命はどれほどでしょう?
 何よりも、外交上の都合(?)で打ち出した「表向きの門戸開放」とは裏腹の、閉ざされた島国ニッポン。「難民受け入れ」政策も同様で、国際化を叫びつつ実態は???そこにわが「くに」の真の姿が透けて見えます。