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12年度総主事通信 ④<No.64>

2012.08.21

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今月のコメント

●「地球村の運動会」~笑顔にメダルを、心に響く美しい歌を

 ロンドン五輪は、国連加盟国を超える204か国・地域の全てが参加し、非加盟の南スーダンなどからも4選手の出場が認められました。イスラム教国から初めて女子選手が参加し、全加盟国・地域が女子選手に門戸を開いたことも特記事項です。今回は「ソーシャリンピック」とも呼ばれ、ソーシャルメディアが大きな役割を果たし、全世界で総計1億5,000万回ものTwitterの「呟き」によって選手とファンが直接つながる大会でもありました。しかし、一日2ドル以下で暮らす世界人口の約半数は、華やかな五輪を知ることもなく、ある人は紛争や災害のため危機に瀕し、ある人は貧困と闘いながら生きているのが地球村です。

 「地球村の運動会で、テレビに笑顔が溢れている。競技が終わった瞬間、それまで重圧や緊張で表情を失っていた選手たちの顔にぱっと返ってくる一瞬の笑顔がいい。・・・運動会で一番輝くのは賞金や賞品じゃなく、参加している人たちの(純度100%の)笑顔だろう」(朝日2012.8.8、天野祐吉氏/笑顔にメダルを)

 閉会式の“Imagine”(by John Lennon)の「世界はいつか一つになる」というメッセージが祈りのように心に響きました。Johnのように、「平和を夢見る」人が一人でも多く増えますように。もう一つの印象的な曲は大会のメインテーマ曲、「炎のランナー(Chariots of Fire)」でした。1981年、第54回アカデミー賞に輝いた英国映画の主題曲です。映画は実話です。スコットランドの宣教師の息子エリック・リデルは1924年のパリオリンピックに出場します。最大のライバルは、「勝利のために走る」英国代表であるユダヤ系のハロルド・エーブラハムでした。敬虔なクリスチャン・エリックは日曜日の100m決勝を辞退するも、友人の好意で400mに種目変更。「神のために走る」彼は、世界新記録で金メダルを獲得。後に宣教師として1925年に中国に渡り、1943年に日本軍の捕虜となり、山東省の捕虜収容所で43歳の生涯を閉じました、五輪と数奇な運命を生きた選手、英国と日本、信仰と宣教、そして戦争、不思議な繋がりに深い想いを抱きました。

 「地球村の運動会」の第2幕はパラリンピックです。地球村の村人が繋がり、世界が更に小さくなって、人々が「笑顔」というメダルと、心に響く「美しい歌」で満たされますように。平和という希望に向かって。

●「キリスト教の人たち」を巡って~被災地にて

 JOCSは釜石での支援を続けています。7月の現地訪問の際、新生釜石教会の柳谷牧師から、「キリスト教の人たちが一番長く残って支援をしてくれている」との地元の方々の言葉を聞きました。「キリスト教の人たち」に、JOCSが含まれています。別の方は、「最初は、正直言ってキリスト教に対する違和感があった。しかし地道に活動を続けているその姿に、次第に信頼するようになった」と仰いました。一方、キリスト教を頑なに拒む被災者の方々もおられると伺いました。「自分たちを救ったのはキリストではない。自衛隊だ」と。ご指摘の通りだと思います。そうした方々にどのような言葉を持ち得るか、答えは見いだせません。「祈らざるを得ない現実」と「祈りだけでは救えない現実」に私たちは時に押しつぶされそうになります。

 3.11以降、国内外の多くの宗教団体が支援を続けています。「生と死」という命の根源に関わり、苦難にある人々の救済をと願う宗教が、本当にその役割を果たせたのか。今、振り返りの時が与えられています。人々に寄り添い、共に生きようとする。しかしそこには限界もあります。宗教を超えた働きが求められているようにも思えます。一つ言えることは、弱さを抱え、躓き、神なくしては生きられず「祈る」私たちだからこそ出来る「何か」があるのではないか、ということ。自らの傷口から人々の痛みが心に沁みてくるのです。
 カリタス釜石で「カトリック釜石教会は、3.11以降キリスト者と非キリスト者が集い、支援のために祈りを合わせる場となっている。深く傷ついた人、寄り添いたいという人々の集いである。それは『原始教会』の姿であり、そこに福音がある」と伺いました。

 宗教は祈りと共に、感謝し、赦し、愛することも大切にします。
 「愛の字を分解すると、ゆっくり歩きつつ振り返る心。『過去に根ざしながら未来に向かう優しさ』と阿辻哲次さん」(朝日 2012.8.17)を引けば、「傷ついた人間同士が、過去に根ざしながら未来に向かう優しさを持つこと」を「愛する」という言葉で表すことができます。そこに一つの光を見出します。

●ドキュメンタリー“Dear Hiroshima”~アートになった原爆

 8月17日、NHKのBSドキュメンタリー「Dear Hiroshima」を観ました。北米初の写真展「ひろしま」@ブリティッシュ・コロンビア大学人類学博物館(カナダ/バンクーバー)が主題です。戦後67年たつ今も、原爆に関する催しは北米ではタブーであり、大学の人類学博物館で初めて実現しました。写真の素材は、広島原爆資料館に届いた遺品です。学芸員スタッフが一つひとつを丁寧に保存し、写真家の石内都さんがそれを被写体として生命を吹き込む作業をした作品です。
 ドキュメンタリーは、宣教師の娘として日本で生まれ育った米国人映像監督リンダ・ホーグランドによるものです。写真展「ひろしま」の作品の一つひとつと向き合った人々の想い、それぞれのドラマが語られました。番組では、様々な事実も明かされます。核開発の原料ウランは、北米や豪州の先住民やアフリカの貧困層が採掘してきたことを知りました。採掘労働者は作業で被爆し、健康被害にも苦しんだでしょう。それは今も同じ。カナダの先住民・デネ族は、自らの採掘した原料が原爆に使用されたことを謝罪しました。国家ではなく、「人間としての謝罪」でした。虐げられた少数民族の人々が、戦争と核爆弾使用という人類の悲劇に加担させられ、夥しい人々の命を奪うことに繋がったという事実。それは知られざる歴史です。

 石内都さんの写真、46点の作品(※)は、被爆し亡くなった少女たちの遺品、ワンピースや人形の写真などです。モノクロの悲惨な写真ではなく、一つひとつに当てられた光によって、彩のある、生きたアートとなって私たちに語りかけます。1945年8月6日午前8時15分、その瞬間まで身にまとっていた人々の衣類、眼鏡、アクセサリーや人形は、その人の物語です。その時まで生きていた人々の温もりと、「生きたかった」という無言の叫びが胸に迫ります。 ※石内さんは写真集「ひろしま」(集英社)を2008年に出版
 「(衣服の)布を透かせたいと、16本の蛍光灯を使った特注のライトテーブルを持ち込んだ。『縦糸と横糸の間に光が入ると、過去が見えてくる』とその上に服をそっと置き、脚立に上って手持ちのカメラで撮影する」(Asahi.com 2008.6.7)。石内さんの作品は原爆をアートに昇華させ、美しさと残酷さを際立たせます。

 広島・長崎と福島の教訓は、一人ひとりの命を尊ぶことです。教訓が未来に生かされますように。