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2014年度事務局長通信 No.107(最終号)

2015.03.18

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今月のコメント

●「仰ぐ十字架」、「背負う十字架」(隅谷三喜男 元JOCS会長)

 「キリストが示したように、どんなことがあろうと、十字架から顔をそむけることのない勇気を、私に与えて下さい!そして、愛する祖国の危機に際しては、重い十字架を背負うことのできる者にして下さい」。
 これは、隅谷三喜男JOCS元会長の受洗後、16歳の時の祈りです。
 隅谷元会長は、十字架を“仰ぎ」つつ「背負う」ことを自らに科し、イエスに従うことを祈りました。これは平和を創り出す者としての誓いでもあります。JOCSも、貧しく小さくされた人々に仕える保健医療を通して「平和を実現する」者の群れであり続けたいと思います。

 私のデスク左側の壁に、十字架があります。その十字架を忘れ、祈ることから離れ、日々の仕事に埋没していたこともしばしば、でした。しかしその十字架は、じっと私を静かに見守って下さいました。特に試練の時に。

 さて私の神戸YMCA入職時(1980年)に、当時の今井鎮雄総主事(昨年11月3日に帰天。前号で紹介)から頂いた聖書には、「狭き門より入れ」(マタイ 7章13節)と書かれていました。使い古した小さな聖書に。“狭き門”には神を「仰ぎ」つつ、自らの十字架を「背負って」入ることだ、“平和を創り出すために”と、今理解します。

●“小さな奇跡”~生かされた命

 私事で恐縮ですが、事務局長通信「今月のコメント」の最終回として私の物語を少しお伝えします。
 58年前、私は、生後間もなく「新生児メレナ」という病気のため下血が止まらず、大量輸血にも係らず、死に瀕していました。主治医は「諦めて下さい」と父に告げましたが、しかし父は、別室の母にそのことを告げることができず、母に知らせなかったそうです。しかし心停止後、暫くして何故か奇跡的に再び拍動が戻ったのだと。10年前に帰天した父が成人してから私に語ってくれました。そして「58年後の、私の今」があります。

 JOCSの青木盛ワーカー(小児科医:1月末で退職)は6年間、パキスタンの新生児医療の現場に従事し、「祈っても祈っても救われない命があった」と静かに語りました。青木さんのその言葉が今も心に残っています。「私も、その一人であったのかもしれない」と。青木さんは、自らの血を緊急輸血し、救われた新生児の父親が、数年後、帰国前に「この子にはパキスタン人と日本人の血が流れている」と言われたことを感慨深く語りました。私も“奇跡的”に「新生児メレナ」から回復した際、多くの人々の血が分け与えられ、生かされた命であることを実感しています。

 私たちは阪神大震災から1か月後、長女を授かりました。祖母は、その“小さな奇跡”に感謝し、70歳にして受洗しました。祖母に訪れた奇跡であり、福音です。今度の3月22日で、祖母は90歳の誕生日を迎えます。

●いのちの恩恵~“病者の祈り”

 「1ヵ月前、私は自分が健康で、至って丈夫だとさえ思っていた。81歳のいまでも、毎日1マイル(約1.6キロ)を泳いでいる。だが、運は尽きた。数週間前、肝臓にがんの転移がいくつもあることが分かったのだ。・・・
 恐れていないふりなど、私にはできない。ただ、私の心を大きく占めるのはある種の感謝の気持ちである。私は愛し、愛されてきた。多くを与えられ、お返しになにがしらかを与えてきた。本を読み、旅をし、考え、書いてきた。世界とのかかわりを築いてきた。それは著者と読書との、かけがえのない交流だった。
 何より私は、この美しい惑星で、感覚を持つ存在であり、考える動物であった。そしてそのこと自体が、とてつもなく大きな恩恵であり、冒険だったのである。」(オリバー・サックス ニューヨーク大学医学部神経学教授。NYタイムス、2015年2月19日、抄訳・朝日新聞 2015.3.6)。
 “いのちは恩恵であり、冒険だ”と。味わい深い言葉です。同じニューヨークにある病院の有名な詩です。

“病者の祈り”

 大事を成そうとして力を与えてほしいと神に求めたのに/慎み深く従順であるようにと弱さを授かった
 より偉大なことができるように健康を求めたのに/より善きことができるようにと病弱を与えられた

 幸せになろうとして富を求めたのに/賢明であるようにと貧困を授かった
 世の人々の賞賛を得ようとして権力を求めたのに/神の前にひざまずくようにと弱さを授かった
 人生を享楽しようとあらゆるものを求めたのに/あらゆるものを喜べるようにと生命を授かった

 求めたものは一つとして与えられなかったが/願いはすべて聞き届けられた
 神の意に沿わぬ者であるにもかかわらず/心の中の言い表せない祈りはすべて叶えられた
 私はあらゆる人々の中で最も豊かに祝福されたのだ

    ~ニューヨーク・リハビリテーション研究所の壁に書かれた一患者の詩~

 この「一患者」の詩は、多くの方がご存知と思います。JOCSを通して途上国の人々の命と向き合う機会が与えられ、阪神大震災と東日本大震災という二つの大災害を経験し、私の心にこの詩に書かれた祈りの奥深さが刻まれました。私は誰か?何故、誰と共に生きようとしているのか、という深い問いと共に、です。